19:ちょっぴりインプレ(2)(1997/11/21)

走り始め:

 古いアルファに特有のシフトの儀式、クラッチを深く踏みこんでから一呼吸置くか、シフトレバーを軽く2速になめさせてから1速に入れます。こうしてアルファの発進準備が整います。旧車に限らず、1分足らずの暖気の後にいきなり自動車評論家に変身するのはやめましょう。特に欧車には機関全体が暖まるまで、何キロも慣らし運転をしなければならないものが結構あります。gtv2.0の場合、走り始めてからさらに水温計が1/3付近に至ってもまだ暖気運転の域を出ません。徐々にエンジン全体やミッションケースが暖まってゆくに連れ、吹け上がりのリミットをクルマの方でドライバーに伝えてくれるので、それが目安になります。走行しながらの暖気の完全終了を知るための目安は水温計でいえば針が真ん中付近より少し低めに来たところ、ただ、針を見なくても、アルファのDOHCエンジンはカムの擦動音、排気音、吸気音、爆発音が渾然一体となり、スロットルペダルを通して溶け出す様な感覚を伝えてくれます。その瞬間からアルファサウンドが始まる訳です。アルファサウンドで思い出しましたが、新車時期を終えたアルファは、国産車に交じってノロノロ運転をしている所ではかなり情けない音がします。これは最新のV6エンジンでもそうです。それをアルファサウンドと言うか言わないかは知りません。

 シフトは冷間、暖気後を問わず、むやみにスピーディなシフトをしたり1速でひっぱり過ぎると必ずギアを鳴かせることになります。1速と2速のギア比が違いすぎるためシンクロが追い付いてゆかないためです。常識的にはアルファの1速は「発進用」と言われていて、3000rpm以上引っぱるのは避けたほうが無難でしょう。ただしこれを回避しながら、1速でトコトン引っぱる伝統的方法が2つあります。ひとつは、リミットまで回した後、すぐにクラッチを切りエンジン回転をアイドリング付近まで戻してから一呼吸置いてシフトアップすること、もうひとつはもちろん「ダブルクラッチ」。このダブルクラッチ、おしとやかにに吹かしても無意味です。空吹かしもシフトを放り込むのもダイナミックにやります。これをスムーズかつダイナミックにやることができれば2速で初めて引っぱるよりは若干出だしは速くなります。ただしあくまでも現代車の水準にあらず。

 ところでこのgtvの場合、高回転で回している時には、3-2ダウンの際にもかなり大仰なダブルクラッチが必要です。

アクセルレスポンス:

 暖気が終了すればアクセルレスポンスは飛躍的に良くなります。スロットルを一気に踏み込むと、一瞬「ガボッ」という溜めの後でレブカウンターが跳ね上がります。約2000rpmのかなり低回転から明確な太いトルクを発生しますが、いわゆる「カムが乗る」状態になるのは4000rpmを超えてからです。この辺から「ホントのアルファサウンド」。最大トルク発生時の4000rpm付近で一つのヤマを迎える感覚が起き、それと重なるようにして徐々にエンジンが軽くなり、あとはレブリミットの6000rpmまで一直線に吹け上がります、gtvはボンネットに防錆塗料がかなり厚く塗られている上にさらにぶ厚い遮音フェルトが張られていて、ノーマルのエアフィルターのままでは「ゴーッ」という独特の吸気音は聴くことは高回転域でないと無理です。

 ところで、ある時期を過ぎてから日本国内に入って公道を走っているAlfettaには全て触媒装置が付加されていることになっていますが、これがあるとないとでは実際の出力もフィーリングも全く違います。触媒付きは低速トルクが太くなるにはなるのですが、なんだか変速ベルトの切れかかったスクーターみたいです。一方、本国仕様は全く別のエンジンであるかのように中速トルクが太ります。最高出力域ではその違いはさらに大きく、カタログデータ値の各ギアにおける最高速度値(ギア比による机上計算値)を目安に、実際に走行して二者のズレを比較するとその差は歴然としています。実はこの違い、gtv2.0で最も多用する3速の速度域での乗り味やトラクションのフィールに多大な影響を及ぼしています。つくづくAlfettaとは不幸な時代に生まれたクルマです。

コーナリング:

 個人的にはgtv2.0はそのギア比と足回りのマッチングから言ってもタイトなコーナーの連続するスプリントには不向きだと思います。gtv2.0を速く走らせるためにはどうしても3速以上が必要で、そうなると80km/h以下のコーナーでは必然的にトラクション不足になってしまいます。

 中速域においては、常識的な走行を心がけている限りはニュートラルステアを保っています。そしてタイトになるに従い当然のように深いロールを伴います。グリップの限界はかなり高く、そのために現代のクルマに慣れたドライバーにとっては終始オーバーステア気味に感じるかもしれません。ここの領域ではそれなりにAlfettaの回頭性を楽しむことはできます。

 でもサスの限界を超えると、かなりきつめのアンダーが顔を出します。問題はここからです。そこでFR特有のトルクステアに持ち込む事は、gtvのギアの性格上、パワーバンドがよほどマッチした速度域でない限りは難しいです。だからタイトなコーナーではトラクションコントロールがうまくできないと、アンダーのままカニ走りすることになります。はっきり言って恐ろしいです。ただし、これは中速域コーナーをヤル気を出して走ってる時の話。要するに「コイツはFRだゼ〜!」とやっても全然言うことを聞いてくれない訳です。(だから人気がないんですかねえ)中速域では漫然と走るに限ります。その方が速いし安全。

 実はヤル気を出して走る方法もないことはないんですが、gtv2.0のドライビングは、アンダーと戦うとかトルクステアをどうするとかには全然なくて、深〜くロールするフロントサスが、人知を超えて路面に張り付いているのを(初め、僕は「絶対コイツのサスは抜け切っている」と思っていました)、どう利用してどうスロットルを踏み抜くかにかかっています。

 gtv2.0の本領を手軽に味わえるのは、やもすると3速にすら放り込めないようなハイスピードが許される高速コーナーです。深いロールがクリッピングポイントに近づくに連れ、きれいに4輪に分散しながら抜けて行く時の快感はちょっとやそっとでは味わえないものがあります。

 要するに、トランスアクスルによる車重モーメントの働きをうまく作用させるためには、ある一定以上の速度が必要なんだと想像すれば話は簡単です。まず、深いロールと共にオーバーステア気味(実はニュートラル)に始まったコーナリングは、かなり深いポイントでアンダーに変わります。ここからはライン取り次第なのですが、例えばそこでスロットルをどーんと強めてゆくと、中速域ではあれほど不自然だった荷重移動が滑らかに出てきて、早々とフロントサスのロールが収束してゆき(というより、4輪全部にお裾分け状態)奇麗なニュートラルでコーナーを出ます。クリッピングポイントが他のクルマに比べて圧倒的に近い、これがAlfettaの快感です。

 はは〜ん、これが、ブッシュのヘタったgtv2.0と、8分山を切ったピレリP6でも現われるとすれば...やはり常識的なスピードではAlfettaのベストマッチングはGT1.8と14インチタイヤってことになるのかしら?

 まあ、そんな訳でgtv2.0は、ちょっとコツを掴んだ途端に進入速度を殺さずに駆け抜ける術を身に付けるので、速度を十分に保てない場面ではかなりの緊張を強いられても、高速域ではかなり「速いクルマ」の部類に入ることができます。

...いや〜、こんなのが本当に速いんでしょうかね?どっちにしても古くさいドラテクなような気はします。

 取り合えず、gtv2.0はGTはGTでも、ヴェローチェというネーミングにふさわしい巡航速度が要求される場面でこそ真価を発揮する実用的なGTカーではあります。もっとも、ドライビングの楽しさという点で言えば、もっと低い速度でこれが出て欲しいし、ここまでコンペティション的な速度を要求されるなら、脱出加速度がもっと欲しくなってしまいます。

まとめ:

「gtvにとって峠とは箱根にあらず、東名御殿場右コースの事なり」



20に続く