ツーリングメモ-5 〜鴨鍋&初富士を見に行こう〜 2003年の元旦はどうやら全国的に初日の出は無理らしい。 数日前から天気予報ではそんな事を言っていた。 それでも初日の出を拝む場所は人混みでごったがえすに違いない。 「それなら人と逆の方向にいっちゃえ」という事で 逆立ちしたって太陽なんか拝めそうもない西伊豆を目指すことになった。 メンバーは4人。 2002年大晦日から2003年元旦にかけて走った、西伊豆年越しドライブの記録。 |
蓮田〜目黒〜東名沼津〜戸田御崎(大晦日) |
2〜3年前からどうも年末年始にかけて不測のイベントが多かったのだが、今年の冬はその集大成ではないかと思えるほど何もかもが変則的だった。12月の半分ぐらいを実家で過ごし、やっと自宅に戻ってふと気が付くと、なんとも訳の分からないスケジュールで仕事が進行している。「こりゃ年内進行は無理でしょ」とはなから投げている自分。
「う〜ん、いかんいつものクセが」と反省。 碑文谷ダイエーは、土日だけキャンピングカーが停められる臨時駐車場がオープンする。高さ制限はキャンピングカーの高さを排除はするが、別に物理的な制限があるわけではないから、多少のオーバーには目をつぶってくれる。ただし駐車枠は長さ5m、幅2mの枠。そこに無理なく停めるためには、場内がかなり空いている必要がある。 さて、どこでやろうか。当初、近場で2〜3カ所、年を越すのに最適そうな候補地を考えていた。なるべく海の近くで。けれども大晦日、都心の近くで「いかにも」な場所はいろいろと面倒がありそうだ。しかも鍋関係は思いの外大がかりになる気配。それならなおのこと、なるべく人気のない場所でゆっくりと過ごしたい。しかも景色の良いところ。花火や汽笛はいらない。そう思いながら東名を目指して走り出したのは午後5時を回っていた。 コーチメンで旅をしていると、必ず「ラッキー」に出会える。それが楽しくて旅するようなところさえある。コーチメンズラック。けれどもコイツに出会うためには3つの条件がある。ひとつ目は、目的地をなるべくあいまいにしておくこと。二つ目は、そこに着く時間を正確に決めないこと。三つ目は、決して2時間以上連続運転しないこと。 けれども、今回はちょっとだけ目的地を確定した。一泊二日の旅行で納めるというルールを設けていたからだ。1/1中に目黒に戻るためには、今夜中に着く場所を確定しなければならない。無理はしないが、なるべく最短で到達したい。そのために、普段は使わない高速道路も使おう。それと富士山を組み合わせて、僕は西伊豆の戸田村という場所を出発前に選んでおいた。以前の伊豆のキャラバンで繋がらなかったルートを確かめてみたいという気持ちもあった。逆算すれば、どんなにのんびり走っても午後10時には現地に着くはずだ。目的地を確定した割には余裕を持ってドライブできる。 環八から東名に入る。帰省のクルマだろうか交通量は多い。途中何度も渋滞情報が流されている。一番大きいのは足柄PAの手前10キロ…のはずなのに、我々が通ってきた左ルートは足柄の合流までどういうわけかまるでスカスカ。右ルートは…?と見れば延々と渋滞していた。これってコーチメンズラック? ショッピングセンターのレコードショップで、1本490円で投げ売りされていたオールデイズのカセットテープは、適当にヒスノイズや中音域の持ち上がったノスタルジックな音質と、選曲の(きっと著作権使用料の絡みだろう)中途半端な古さのバランスが絶妙だった。CDやMDデッキに付け替えるのはもう少し後にしよう。ドロドロと低音で唸り続けるV8エンジンと、船の様に少しオーバーに揺れる室内。漆黒の闇にテールランプが流れ去る。すすむさんが「ロードムービーみたいだ」と表現した。 沼津ICからR1を横切って伊豆中央道を修善寺道路の手前で降り、内浦〜西浦〜大瀬崎を回って戸田に向かう。地方道17号(沼津土肥線はくねっている上に、集落付近は漁村特有の激烈な道幅の狭さ。コーチメンでも対向車とすれ違うのにかなり神経を使った。夜だったから通行量も少なくてすんだけれど、昼間だったら往生するかもしれない。アップダウンも思いの外きつい。特に大瀬崎を越えて西岸に出てからの数キロがかなりの峠道になる。アルファなら楽しいがアメ車のバンにはただただ苦痛なだけ。後ろで寝ている二人を起こさぬよう苦労しつつも、8時半過ぎには戸田村の御崎駐車場に着いた。駐車場の奥の方の、灯台の下にコーチメンを停めて早速年越しの始まり。まずは きそ献立に基づいて、だっしー&きそが腕を振るってオードブル。続いて鍋の用意。 すすむさん実家から持参の八海山(一升瓶)を、これまた持参の漆塗りの焼き物に開ける。
ダイネットテーブルに乗りきらないほどの前菜(きそ献立) ・カプレーゼ
前菜を片づけてやっと鴨鍋(はりはり鍋)が乗る。
ネリはずっとこんな調子で見守る。
みんなで鍋を囲み、杯を傾けていると、ラジオから紅白歌合戦が聞こえてきた。ラジオで紅白なんて何年ぶり…いや、おそらく初めてだ。「この放送をブラジルやハワイの人たちも聞いているのかもしれないね」と、誰かが言う。そういう思いがなぜかふと頭をよぎる。外は静寂と時々聞こえる潮騒。灯台のぼうっとした灯り。
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戸田御崎(1/1/2003) |
新年。あけましておめでとう。空は明るい。駿河湾の向こう岸が日本平の方まで見渡せる。しかし山までは霞んで見えない。この天気ではどこも初日の出はちょっと無理だったろうな。そう思いつつも、ネリを連れ回しては富士山の方角を仰ぎ見る。昨夜、八海山のうまさに調子づいたか、起きてもなんとなく頭がぼーっとする。 富士山はなかなか顔を出してくれない。天気が良ければこの方向に見えるはずなのだが。うっすらとシルエットだけが肉眼で確認できる程度。
このキャラバンのもうひとつのメインイベントは「お雑煮」と「おせち」。だっしー献立。昨夜のハリハリ鍋(鴨)のダシが効いて、いい具合になっている。これに自宅から持参した伊達巻き、煮豆、かまぼこで、一気にお正月に突入。
餅はこのようにして焼いた。ガスコンロのついたクルマで、あえて七輪で餅を焼く。七輪はハマる。キャンプ用の洋モノの必要はない。伝統的な日本の七輪、それも別に高級品じゃなくてもいい、ホームセンターの片隅でほこりをかぶっていた1480円の練り物。炭も、いろいろ試してたどり着いたのが、やや安めの「オガ炭」。こいつは火力は備長炭なみ、価格は切り炭なみ、ガスも少ない、コストパフォーマンスに優れたやつ。
初富士は取りあえずお預けにして、何か面白そうなものを探して戸田漁港へと向かってみる。街は道幅も駐車場のスペースもかなり狭く、コーチメンクラスでも自由に行き来できるほどのスペースはない。沼津に出ている定期船の乗り場に、若干の駐車スペースらしき広場があって、奥の方に釣り人のものと思われるキャブコンが停まっていたが、アメ車がのさばる程の広さはない。しばらくうろうろしていたが、偶然その岸壁とは川を隔てたところにある休業中のおみやげやさんの駐車場に停める事ができた。
カニ屋さんで順番を待つカニとたわむる。タカアシガニ。水族館で何度か見たことがあるが、イケスでうごめいている姿は、食べ物とか水生動物というよりは、異星人。時々逃げ出すヤツもいる。活かしておかないと水になってしまうのだそうだ。だからタカアシガニは現地でしか食べられない。通信販売もない。
港では、竹竿と釣り糸と針と餌を貸し出していた。カップルや子供達が浮釣り(落とし込み)をやっていた。小さな魚を誰かが釣ると、背後で待機していた猫がキャッチする。うまいシステムだ。僕も何十年かぶりに釣りがしたくなってきた。
お昼を過ぎた頃、再びクルマに乗り地方道18号(修善寺戸田線)を修善寺に向かって東へ。目の前にそびえる壁の様な山。これじゃあ、頼朝が「伊豆に流された」というのも合点が行く。クルマは難なく登れるのだが、ガソリンの事や揺れを気にしてついついアクセルが緩む。平均して40km/hも出ていない。快適に走ろうとすると30km/hぐらい。当然後ろのクルマにも迷惑がかかる。バックミラーを見るとランクルがせっついている。ウィンカーをあげて道を譲る。道を譲られると人はどういうわけかスピードを上げる。青息吐息で痛々しいのだが、それでも頑張ってごーごーとうなり声をあげながら去っていった。 ほんの少しだけ、富士山が顔を出してくれた。
風が冷たくなってきた。昨夜の酒がまだ身体のどこかに残っているような感じが続いていたが、寒さでそれが辛さに変わってきつつある。お風呂が恋しくなってきた。修善寺に降りて温泉探し。もっとも以前にも感じたが、修善寺自体、昔からの温泉街のせいか、そもそも日帰り温泉というものが他に比べて圧倒的に少ない。どうしようか考えていると、すすむさんが持参のThinkPadで日帰り温泉をWEB検索してくれた。すると修善寺道路をしばらく南下したところにスパラシオという日帰り温泉があるという。入浴料は若干高めだったが、正月ということで少しだけ割引(1000円/人)。 上がってからしばらくロビーでくつろいだ頃、すすむさんが財布の紛失に気がつく。置き忘れたと思われる場所に行ってみるがない。どうやら誰か持っていってしまったらしい。職員に聞くが届いてないという。見てるとどうもここの職員、傍から見ていてやる気が見えない。我々があちこち店内を探して回っている間も、誰一人何事もなかったかのように関与なし、他人の財布は客と言えどもあずかり知らぬような態度。 帰途は足柄P.Aまで一気に走った。新年の足柄P.A.は、いつもならトラックのアイドリングで濛々の空気が嘘のように、ガランとしていた。空気も澄んでいて静寂が支配している。点々と数台のキャンピングカーが休んでいる。広く空いているP.A.で見ると、フルサイズバンもまるで軽自動車の様に見える。こういう賑やかなドライブもいいな、賑やかなドライブならもっと大きいクルマでも良いかも知れない。そんな考えがふと頭をよぎった。 でもコーチメンはとても僕らのスタイルに似合っている。走っている時よりも停まっている時の方が楽しいクルマ。でも決して走ってる時だっておろそかにしてない。決して俊敏なクルマではない。ハイテクでもハイメカでもない。けれども今回のドライブ中も、僕らは幾度となくクルージングの世界に入り込んだ。コーチメンでのドライブは常にクルージングだ。「移動」じゃなくてクルージングなのだ。この快適で穏やかな時間の流れも、やっぱりコーチメンズラックの一つなのかも知れない。
11時過ぎ、東京駅にすすむさんを送り、東京タワーの「2003」のサインの下を通り目黒へ。今回のキャラバンも無事お開き。自宅到着直前に電池が切れて蓮田P.A.でおまけのP泊。
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© Chihiro SATOW