もともとソリを引くために生まれてきたハスキーですが、家庭犬として見た場合には、ハスキーの引っ張り癖は、家族との絆に致命的なダメージを与えかねないほどの問題となる可能性があります。特に徒歩での散歩の時は深刻です。実際、それが元で幸福とは言えない人生を送ったハスキーを僕も何頭か知っています。それだけハスキーのマッシュは強烈です。プロの訓練士さんなら、口を揃えてハスキーと言えどもしつけで引っ張らなくすることはできると言います。ただ、それがハスキー特有の方法となると知っている人は少ないかもしれません。他の犬の様に「アトエ」だけで全て事足りるなら苦労はしないのですが、ハスキーにはそれが通
用しません。
ブームもなんだか上っ面を撫でただけで去ってしまい、もしかすると未だにどんな教科書にも載ってないかもしれませんので、敢えてここで、僕が体験的に編み出した方法を紹介します。おそらくベテランの飼い主なら誰でも大同小異経験的に知っている方法だと思います。方法や理屈自体は、言われてみれば「ナーンダ」と言うほどいたって簡単です。それは、散歩の時に、自転車による引き運動にし、その制御方法を完全にマスターするという事です。引っ張って良い状態で制御ができれば、自然に「引っ張らなくて良い」状態を、犬自身が把握するようになります。要は、ハスキーが仕事をする場を、毎日与えてやる事なのです。もちろん個体や年齢によっては時間がかかる事も考えられますから、焦らずじっくり、毎日の生活の中で根気よくやってください。それと、以下の訓練はアルファの人が行ってください。この意味が分からない人はハスキーの訓練はできません。
1:くつろいでる時などに「アトエ」or「ツケ」ができる
これについては、どんな教科書にも載っています。もしこのコマンドが入ってない場合は、根気強くこれを覚え込ませてください。ただ、散歩の時はこれをやってもムダなので、例えば食事の前や、散歩先の公園などでくつろいでいるときに行います。方法は他の犬と全く同じです。ただ、こういう定番訓練の場合、ハスキーは物覚えがすごく良いくせに、覚えてないフリをするので、飽きてしまう前に訓練を切り上げるとか、ご褒美を工夫するなどハスキー特有の解釈が必要です。
2:散歩の方法を自転車の引き運動ができる
朝夕2回の散歩を、全て自転車による引き運動にします。条件は、犬が引っ張った時に自転車が直進できる状態の場所に、引き綱をくくりつけること(足の邪魔にならなければサドルのシャフトやシャシの後ろの方がいいかもしれません。よくハンドルにくくりつけている人がいますが、ハンドルはとても危険です)がひとつ、そしてもうひとつは、胴輪の選択です。絶対に犬が縄抜けできない様な物を厳選します。その辺のペットショップで売られている革製の胴輪の殆どはハスキーには役不足です。できればスレッジ用のものを用意します。ベルクロ素材が丈夫でおすすめです。
本来、自転車による散歩は幼犬の頃からしつけるのが基本ですが、元々ハスキーは横引きする癖も少ないはずですから、自転車による散歩はそれほど苦労なく覚えられると思います。問題はスピードです。慣れていない犬の場合、最初は殆どブレーキをかけたまま散歩する事になると思います。もし怖いようでしたら、しばらくは降りて歩いても構わないと思います。犬が自転車の存在に慣れるのが先です。綱の長さは、犬が自転車の真正面
に立てるぐらいの長さにします。あまり長いと危険ですし、短すぎると犬が姿勢を保持できなくなって自転車を嫌がるようになってしまいます。
散歩を始める際は、必ず自転車を静止状態にし、犬に「マテ」をさせます。玄関を出て、いつのまにか走り出す様な事は絶対に避けてください。「さあ、今から散歩なのだ」と、飼い主自身が心の中でリセットするような感じでスタートラインに着きます。
3:引き運動制御の訓練1(スタート)
スタートラインに着いたら、「さあ、行こう」あるいは「行こう」というような、スタートのコマンドを訓練します。ブレーキをかけたまま、犬と一緒に前進を始めます。犬は思い切り引っ張るかもしれません。漕がなくても犬が引いてくれるのでラクチンですが、あまりスピードが乗らないように、半分ブレーキをかけたまま、歩くよりちょっと速い程度で進みます。たぶん、このスタートコマンドは1〜2回で入ってしまうのではないでしょうか?それがハスキーの才能です。
4:引き運動制御の訓練2(ストップ)
次にストップコマンドを訓練します。「ストップ」「止まれ」といった感じです。コマンドと共にブレーキをかけ、静止します。止まった後でも犬が引っ張ろうとしたら、「アトエ」のコマンドをかけるか、綱を引っ張って、犬が完全にトルクをかけない状態にします。慣れてくると「スワレ」と併用して信号待ちなどの時にも使えます。
5:引き運動制御の訓練3(マッシュ)
そして再び「行こう」で走り始めます。しばらく走ったところで、今度は「ゴー」あるいは「ダッシュ」「マッシュ」というようなコマンドと同時に、飼い主自身が自転車を全力で漕ぎます。犬と競争する様にです。ちなみに「マッシュ」は、スレッジレースの時の、ダッシュのかけ声です。慣れてきたら犬の引っ張るのに任せてしまってもいいかもしれません。40km位 出るので、最初は怖いかもしれません。安全が確認できるところで行ってください。
6:引き運動制御の訓練4(スロー)
数十メートル走ったら、今度は「スロー」あるいは「ゆっくり」というようなコマンドをかけます。そしてブレーキをかけ、スタート時のスピードに戻ります。そうすると、犬はトロットになります。この状態で引き綱がピンと張っている事はほとんどないと思いますので、軽くテンションをかけた状態になるまで自転車をスローダウンさせます。
この引き運動の制御1〜4は、毎日、散歩の間中やります。もうひとつ大事な事を付け加えておきます。一連の訓練の最中、右折したり右に寄ったりする時は必ず「ミギ」、左に曲がるときは「ヒダリ」と、犬に声をかけてください。この制御、ハスキーはびっくりするぐらいあっという間にマスターします。僕とゴルビーは1週間ぐらい(夕方の散歩が5〜6回)で全部マスターしてしまいました。マテやフセなんかに比べると、複合コマンドのはずなのに、本当に吸収が速いのです。この制御訓練をマスターすると、本当に自転車での散歩が楽しく、また安全になります。この喜びを知っているハスキーオーナーが本当に少ないのが残念です。ただし、言うまでもないことですが、この一連の動作はアスファルトでやらない方がいい部類に入りますから、散歩の間中、全力で走りつづけたりトロットをすることは避けてください。また、夏は特に気温に気を付けてください。
雪国なら実際にソリでやってしまったほうが早いかもしれませんね。
7:歩く練習
自転車による散歩がスムースにできるようになってくると同時に、徒歩時の引っ張り矯正の訓練をやります。これは日中など、明らかに散歩とは違うコースとシチュエーションで行います。例えば商店街への買い物などがいいかもしれません。もっと短く、例えば玄関からクルマに乗り込むまで…というような距離でもいいかもしれません。ここで「アトエ」「ツケ」が生きてきますが、あまりリードを短く持ちすぎないように、ひっぱり始めたら「ストップ」のコマンドで静止してしまいます。最初は数歩あるいては止まるような状態かも知れませんが、だんだん、シチュエーションを理解して、引っ張る力が弱くなってくるのを感じる事ができます。
8:ハスキーの引っ張り癖はどこまで矯正可能か?
個体差はあると思いますが、例えばゴルビーと僕は銀座の歩行者天国によく出かけていました。今では珍しくも何ともないですが、当時は大型犬が銀座を歩いている事自体が異常な光景に近いものがありました。その人混みを臆せず歩ける状態と言ったら驚くでしょうか。ただ、引っ張るところとそうでないところを自分で勝手に判断する癖は最後まで残ってたかもしれません。また、家内が散歩(徒歩)するときは殆どダメでした。ただこのことはハスキーだけでなく、全犬種に言える事じゃないでしょうか。気を緩めればすぐに前を行きたがります。それを常に制御し続けなければならない宿命だけは、ハスキーに限った話ではないのです。