37:Alfettaと75と...(1)(1998/03/18) |
環境問題とエンジン もしクルマを運転する事が趣味ではなく、生活や仕事のために必要に迫られて使う道具だとしたら、アルファは評価できるクルマでしょうか?少なくともアルファのメカニズムに注意や興味が向くなんていう事は稀でしょう。そこまでは趣味の問題です。ではもし、漫然と使っている道具が、自分の安全と引き替えに何かを失っているとしたらどうでしょう。アルファはその評価に耐えられるクルマなのでしょうか? Alfettaと75TSの違いは、クルマというものに対する時代の視点の変化と完全にリンクしています。その視点のキーの代表格とも言えるのが1970年にアメリカで成立したマスキー法案(本格実施は1975年)です。この影響で、1970年代以降、自動車にとってエミッションコントロールは最も大切な設計ポイントの一つになりました。マスキー法〜第一次オイルショックの前と後では、クルマは、ハンドリングもエンジン音もレスポンスも、まるで別の道具の様に違います。 それまでのエンジンの考え方は、いかに大量の燃料を送り込み、高速で燃焼させるかという事に主眼がおかれていました。そのため、吸排気効率が最も優先され、今では考えられない程濃い排気ガスを出しているのが普通でした。 この事に世界で初めて明るい未来への答を出したのは、アメリカ車でもドイツ車でもなく、日本のホンダでした。ホンダは、環境問題が叫ばれるずっと前、まだ二輪車メーカーだった1950年代から「エンジンにとって最も重要なのは吸排気効率ではなく、燃焼効率だ」という事を見抜いていました。その考え方は今や当り前のセオリーですが、当時はどちらかといえば特殊な考え方だった様です。その考えの正しさは、ホンダが世界で初めてマスキー法をクリアしたCVCC式と呼ばれるユニークなエンジンで証明されました。他のクルマがエミッションコントロールでは独自の技術を持たず、旧式なクルマに触媒を後づけし、アイドリング時のCOやCO2を辛うじて減らしただけだったのに比べ、CVCCはどんな回転数であってもクリーンさを失わなず、NOxすら減らす(当時の難題だった)という画期的な技術でした。 ヨーロッパは、今でこそ環境保護の旗手の様な顔をしていますが、つい最近までは日本やアメリカに比べて環境問題についての取組は一世代以上遅れていました。その代表が自動車でした。1980年代初期には日本車が相次いで性能と低公害という二律背反の命題をクリアしていったのと対称的に、ヨーロッパ製のエンジンは1980年代後半まで、1960年代と何も変わっていませんでした。1990年代になってヨーロッパ車も完全に低公害と性能を両立させたクルマ作りが軌道に乗ったために、今や日本車をも凌ぐ勢いがありますが、当時、彼等はまだ時代に取り残されていたのです。 アルファロメオもその例に漏れません。他のヨーロッパ車がそうであるように、アルファロメオもまた日本の厳しい排ガス規制をパスするためには、最終的には「三元触媒」という方法を取るしか道はありませんでした。この三元触媒は排気ガスをクリーンにする方法としては効果的ですが、あまりこれに頼りすぎると排気効率が悪くなるために燃費や出力に悪影響が出たり、プラチナやパラジウムなどの重金属が含まれていて複合汚染の危険が出てきます。実際、どのメーカーでも触媒を併用しながらも現在では、トータルなバランスでの低公害化をより重視する方向にあります。 しかし、アルファのエンジンだけが排ガス規制に対してとりわけ「不利だった」という訳ではありませんでした。むしろその逆で、考え方やフィーリングを大きく変えることなく、触媒だけの追加でかなりの間通用しつづけるなど(実はアルファエンジンは、触媒の有無で排気ガスの臭差区別がしにくいという点も見逃せません。どこまでクリーンなのかは分かりませんが、他のクルマの排気ガスが異様に臭い事を考えると、元々燃焼効率は悪くないはずです)トヨタや日産のエンジンが、排ガス規制によって別物になってしまったのに比べると、ずいぶん事情は違っていたのでした。ホンダのCVCCと同様、アルファのマスキー法への適合も、1960年代に培ったレース技術が決して環境問題と矛盾しなかったからなんとかなったのでしょう。言い替えれば、クルマの将来を真っ先に見据えているのは、良き市民でも消費者団体でも、まして大資本や政府でもなく、いつでもクルマ好きなエンジニアのこだわりという訳です。 このエンジンの元々の素性の良さは、Alfettaが1980年代に入ってから三元触媒+キャブ仕様で十分クリアできたという事からも伺えます。低速域でのレスポンスこそ悪くはなっていましたが、高回転域では殆ど問題ありません。むしろスピカインジェクションの2000CCよりもずっとパワフルになっており、ジュリア2000GTVに近づいています。また、1.8GTに比べてもトルクが太くなった事で、アルフェッタ特有のダルさがいくぶん解消されています。その野太さは他の排気量のアルファにはない、一種独特のパンチ感があります。もちろん同じ2000cc同士を、触媒のあるなしで比べれば、粘りに差は出ます。各ギア比における最高速度にも差があります。これをその後のツイスパークと比較すればなおさらです。1960年代のダイレクト感を味わうエンジンとして考えた時にはもはや触媒とは相容れない要素を確実に持っています。 しかし、環境の事を考えて最低限の味わいを求めるなら、これに勝るユニットはないだろうと思います。ツインキャブとスポーツエンジンという取り合わせが、後づけの触媒だけで日本の世界的にも厳しい54年規制をクリアできたというだけで、驚異すら感じます。 75TSに積まれるツインスパークエンジンは、Alfettaとは比べ物にならない程、トルク感も高速域での伸びも格段に良くなっており、使えるバンド域でのハイパワー感はむしろ、同時期のホンダやトヨタのスポーツエンジンを完全に上回っています。もはやそこには、オーナーが低公害とクルマの楽しみの二律背反に悩みながらメンテする姿はありません。大手を振ってアルファサウンドを楽しむことができます。 |