22:アルファはなぜ楽しいか(2)(1997/12/04) |
「アルファに乗って感動したことがない」と先に書きました。少し極端かもしれません。 例えばゴルフでは、ある時、高速道路を長距離ドライブしていた時にその感動を味わいました。ゆるい下り坂のブラインドコーナーの先に障害物を発見し、4人乗りの状態で140km/hで急ハンドルを切った事がありました。実際には車線を半分ほどずらしただけでクリア、その後何事もなかったかのようにゴルフは140km/hで巡航し続けました。あの時は一緒に乗っていた友人たちと驚嘆の声を上げたものでした。そしてそのフールプルーフ性の高さに感動しました。 シトロエンはもっと分かりやすい感動がありました。普段の乗り心地もさることながら、それが感動に変わるのは、道路の断差を超えたときです。「ドドッ!」という、タイヤが断差を超える音だけが車内に聞こえるだけで、伝わってくる振動や上下運動が何もないのが、程度のしっかりしたシトロエンです。決して、出始めの頃の某コンピュータ制御式エアサスにありがちだった、音だけが消えて「あ、超えたな?でもすごく滑らか」という様なフワフワ感の残る妙な納得のしかたではなく、「ひょえ〜!」という感動がダイレクトに来たものでした。 アルファは、そういうのがないのです。クルマとして分かりやすいファクターは「エンジン音がいい」ぐらいなもんで、あとは「あれ?あれ?あれ?」という間に自分が熱くなっていて、ドライブを終えてグッタリする、後からジワジワ込み上げてくる。そういう様な感じです。だから、本当にいろんなクルマに乗って比べないとアルファの良さが見えてこない、クルマ好きでないとアルファと長い付き合いができないというのは、そういう分かりづらさの部分にあるのかもしれません。 僕が名車だと思っているクルマのひとつに、ユーノスロードスターという、とても良く曲がるオープンのライトウェイトスポーツがあります。個人的には僕は1.8よりも1.6の方が好きなのですが(漫然と乗ると、これもかなりトロいクルマだった)、ロードスターの凄さというのは、オープンだからとかいう所にあるのではなく、普通のクルマを普通に軽くして(現代の水準でいうところの)、普通にちゃんと作ればあんなに楽しくて安全なクルマになるのだという、日本人の技術と感性(自動車文化)も決して捨てたもんじゃないという見本になった事です。 ロードスターのドライブの楽しさで僕の記憶にあるのは、コーナーを曲がるための運転の基礎がどういうものであるかという事をとても分かりやすく教えてくれる事でした。つまり「横G」と「アンダー」をいかにクリアするかという事です。それは荷重移動だったり、ある時はトルクステアだったり、鋭いハンドリングの使い方。で、こういう類の面白さというのは、後で決まって「決まった!」とか「失敗した!」とかいう感想がつきものになります。それと同時に、クルマの限界にもある絶対値が求められます。すなわちヨーイングレベルとの戦い、つまりダンパーとエンジンパワー、そしてボディ剛性の限界との戦いになります。だから慣れてくるとノーマルのロール特性やグリップじゃどうしても軽快感に欠ける部分が出てくる...そういう声が出てきたからロードスターは1.8になり、ボディ剛性が改善されたんじゃないかな?と僕は思います。でも、それはロードスターに限った事ではなくて、普通のクルマの当り前の話というか万国共通の、理想はサーキットレーシングに行き着く「強化」の部類に入ります。運転技術が上達して、そのクルマの足を使い切れる様になると、だんだんクルマを強化したくなります。速く走ろうとすれば、まずダンパーを固いものにすることから考えます。だからこそ、最初から軽くてそこそこ足廻りの締まったロードスターは、それだけで楽しかったのです。 ところが、アルファはかつてレースでどういうコーナリング性能を目指したか僕には分かりませんが、こと市販車に関しては、どうもドライバーに感じさせる「強化」のベクトルの行く先が「サーキット仕様」を向いていない場合もあるような気がするのです。どれが良くてどれが悪いとかという意味ではありません。「楽しいコーナリング」にも種類があり、アルファ(というかAlfetta)のそれは明らかに世の中の主流とは一線を画して捉えている種類のものだという事を感じるのです。普通は大きなロールを感じただけで、コーナーをクリアする事を躊躇してしまいます。だからバネレートやダンパーの硬軟を、コーナリングスピードの一つの基準にします。ところがアルファに乗ると次第に分かってくるのは、ロールというのはサスの仕組やセッティング次第では非常に重要な働きをするのだという「ジドウシャの基本」です。それほどgtv2.0のロール特性というのは、乗り方ひとつで大きく変わってしまうものでした。 もっと速く走ろう、もっと楽しく走ろうとした時、あのロールを抑えるべきか、それとも積極的に使うべきか大いに悩んでしまうところに、アルファの面白さ、不思議さがあります。そしてコーナリングがうまくいった時、クルマの重量が消えて行く瞬間に気付き、何かこう心臓がガタガタ言って身震いする事があるのです。 普通に走ればニュートラル、漫然とスピードを上げるとアンダー、怖がればタックイン(Alfettaは思いのほかきついタックインを起こす)、だけど、その先にあるもの....車体全体にかかるヨーが、これから始まる鋭いコーナリングの序曲に見えてくる...これらが、あの走行4万マイルを超えたブワブワのスピカ製ダンパーからすら感じる事ができるというところに、僕は何かこう、ハマり込んだら抜け出せない、カルト的な匂いを感じてしまうのでした。 |